大阪北部地震レポート(2018年6月19日)
◆はじめに
2018年6月18日午前7:58大阪北部地域を襲った「大阪北部地震」についてマンション防災の観点からレポートする。同じ「直下型地震」ということで2年前の熊本地震と比較しながら、マンション防災への気づきを記していきたい。
◆発災翌日の現地調査
地震の翌日10:15新幹線でほぼ定刻に京都到着。ここから在来線でほぼ震源の高槻市に向かう。線路にゆがみがあるという情報から、出発が大幅に遅れ、飛び乗った普通列車は途中西大路、長岡京などで延々停車を繰り返し、高槻市到着は乗車1時間後になっていた。結構長く感じた。高槻下車後、まずコンビニに入る。駅のセブンイレブンには入荷があった直後で、ちょうど、がらんとしていた食品、総菜コーナーにスタッフが商品を置くそばから、次々に売れていった。昨日は完売だったというが、それでも翌日(発災24時間後)に店頭に食品や水が並ぶ点は、やはり災害が限定的であったというラッキーなことが挙げられると思う。しかし、災害が限定的か否かは、自然が勝手に決めるものであり、人間が入り込む余地はない。単にラ結果がラッキーであっただけのことだ。駅前の複合ビルの書店の店員によれば昨日は本が散乱するなど、全館臨時休館したという。とは言え、この時間帯の商店街も、駅前の松坂屋も発災翌日から平常通り営業しており、熊本地震で地元鶴屋百貨店が2週間たっても営業できなかった事実とは比べようもない。
歩いて高槻市役所へ向かう。市役所はちょうど耐震補強工事のさなかでメッシュシートに覆われていた。災害対策本部となる庁舎が地震の影響を受けることなく無事であったこともラッキーだ。ただ、驚いたことは、ごった返していると思った市役所は午前中閉庁し、閑散としていたことだ。かろうじてブルーシートを配給する係だけは受付するものの、ほかに訪れる人はいない。玄関扉が無情にも施錠されているからだ。庁舎に罹災証明を求めて長蛇の列ができ、避難所として開放した野戦病院の様相を呈していた熊本市役所(発災後2週間目)とは対照的な静けさである。国土交通省近畿地方整備局の職員が応援に駆け付けているところであった。
タクシーが市役所前ではつかまらず、阪急の駅方向に歩いていく。市役所の横ではガス管の復旧工事が行われていた。現在のシステムでは遠隔でガスの供給を遮断することができ、大規模な2次被害が発生しないように改善されているが、ガス漏れの箇所の点検とその復旧には相当の時間がかかる。熊本地震では全国から応援を得ても2週間を要した。今回はこうした他地区からの協力も得て、前倒しした1週間で復旧させると力の入れようがちがうが、それにしても1週間の不便は大きい。現地では多くの店は営業していたが、カセットボンベをレジ袋に入れて持ち歩く人の姿が印象的であった。買うことができるうちはまだよいが、殺到して買えなかったらどうなるのか。ガスコンロの確保、これも日頃からの備蓄の課題であることは明白だ。また水道が開通しているところでも濁った水が出るなど飲料水として使用できないことから近隣の飲食店が軒並み閉店しているところは、平常に見える町中においても、地震直後の緊迫感を思わせる。そんな中で呼び込みをしている店があった「本まぐろ直売」を看板に掲げ、マグロ丼とネギトロ丼を提供する弁当屋兼簡易食堂に呼び寄せられた。電気炊飯器でご飯を炊き、ポットで味噌汁を提供する、営業に対する前向きな姿勢を実感した。これはアクションだけでなく、味の方も満足の650円には心が和んだ。発災当日も15時まで営業したというからスゴイ。店主は北部のマンション6階に居住し、揺れは相当なものだったと恐怖を語ってくれた。室内に散乱する食器や雑貨の類の写真、エクスパンションジョイント部分の損傷の写真を見せられた。そもそもエクスパンションジョイントは建物と建物が干渉し、損傷しないように壊れることはその役目であることを伝えると、安心された。地震の正しい知識をお持ちでない方は、どうしても建物の損傷する場面を目の当たりにすると不安になる。熊本でも正しい情報と、正しい知識を伝え、無用な恐怖を抱かせないことが居住者への精神的フォローであることを再認識した。
◆マンションでの被災の実態
飛び込みで入ったマンションの管理員によれば現在、水道は開通し、ガスが使えないことを除けば平常という。昨日は発災時には出勤しており、終日対応にあったとのこと。東日本大震災時は多くの管理組合で管理員が活躍したが、今回もそうなったようだ。エクスパンションジョイントの状況は本日、この後に施工会社が現地確認に来るとのことであった。阪急高槻市駅からタクシーを確保し、車中から眺めるも、損傷が激しい建物が驚くほどない。熊本の町の瓦の崩壊と屋根を覆うブルーシート群とは違い、ブルーシートで覆われた家屋は数えるばかりだ。ましてRC造での損傷を見つけることは容易ではなかった。明らかに旧耐震のピロティ方式と思われる建物でも、倒壊は発生していない。
その後、エクスパンションジョイントの損傷があるマンションを訪問した。ちょうどフロントマンがマンションに立ち寄り、現場確認するところであり、これに立会いさせてもらった。10階建てのマンションで高層階になるほどエクスパンションジョイントがめくれ上がり、揺れの激しさを物語っている。さすがにそこまでで、躯体は傷んでいないことから、エクスパンションジョイントが立派に役割を果たしたということがわかる。2か所ある繋ぎ目部分のうちの集会室につながる部分のカバーが外れていることが判明した。居住者に直撃することがなくて本当によかったが、エクスパンションジョイントのカバーについては、日ごろから発災時の落下があることを居住者に啓発していくことの重要性を改めて感じる。自分のマンションにはどのような構造があり、災害時にどのような事態が発生するかを知っておくことができるならば、マンション防災にはとても有効であり、できる限り啓発していきたい。ちょうどエレベータ保守会社の作業員が復旧のために作業をするところであった。閉じ込めがなかったのは幸いなのだが、閉じ込めがなかったゆえ、発災後29時間後に、ようやく復旧となった点は考えさせられる。今回のように災害が限定的でありながら、これだけの不便がかかるということ、広域的な大規模災害であればもっと長い期間エレベータが使用できなくなることを想定し、その間、階段での荷物の持ち上げのような重労働がないように、日ごろから各住戸での食料・飲料水の備蓄の必要性を強く感じた。また外壁タイルの剥落が2か所で発生していることが判明した。コーンを置いて立ち入り禁止にすることをフロントから管理員に指示があった。住民からは住戸前の雑壁(腰壁)や専有部分内部の躯体へのクラックについての質問が入っていた。共用部分にあたることから、後日アンケートで状況を把握し、対応するのがよいだろう。
◆水道について
このマンションでは増圧直結方式であり、停電又は水道管損傷がない限り給水が止まることはない。しかしながら、一般的な文章「今後断水する可能性がある」と記載された案内では、不安を煽る可能性があるため、増圧直結タイプおける完全な断水は、水道管の損傷い限ること、停電時であれば、低層階での給水は可能であるなど、そのマンションにあっ案内が望ましい。なかなかここまでの対応はむずかしいものの、防災マニュアルの中で、明記することで居住者の対応や意識も変わってくるものと思う。
◆災害ゴミついて
今回訪れたマンションでは、目立って災害ゴミをみることはなかった。もっともそれは共用部分になかっただけであり、専有部分に相当のごみ(予備軍)が散乱しているはずである。環境省が発災当日、13時の時点で大量の災害廃棄物が発生する恐れから、5府県に仮置き場確保の要請が出されている。昨日の今日のことであり、この問題はまだこの後にクローズアップされてくるものと思われる。熊本のような地方都市ではなく、大都市の過密した敷地内での災害ゴミの置場は課題である。
◆おわりに
古くからの銭湯の煙突がぽっきりと折れている映像がニュースで流されインパクトがあった。経過年数を経ていることから、ある意味で仕方がないことのように感じる。今まで何ごともなく、よく持ちこたえてきたものともいえる。その一方で、ブロック塀の倒壊で痛ましい事故が発生したものの、今回建物の倒壊はなかった。ピロティ形式の耐震性に脆弱な建物も多数あったにも関わらず、これらの損壊は免れた。それは地震のエネルギーが熊本地震ほど大きくなかったことや、専門的に言うと地震の周期が0.5秒以下と短い周期であったこと、これらが偶然の結果としてマンションなど建物の大きな事故がなかったということに過ぎない。それ自体がラッキーなことであり、それを奇貨として来るべき大規模災害に対応しなければならないと改め感じた。